審査委員特別賞【住宅リフォーム部門】
House IK 型と膨らみ
| 設計会社 | 1-1 Architects 一級建築士事務所 |
|---|---|
| 施工会社 | 平田建築（株） |
| タイプ | 持家一戸建 |
| 構造 | 鉄骨系プレハブ |
リフォームの動機／設計・施工の工夫点など
型式認定住宅は、その申請方式ゆえに簡単に壁や床を取り払うことは極めて難しい。スクラプアンドビルドすれば、要望に適合させることは容易だが、限られた予算と型式認定の枠組みの中で柔軟にリノベーションすることができたら、世の中に溢れる同様のストックを活かし、次世代につなげるプロジェクトになるのではないかと考えた。具体的には、要望に対して比較的大きな面積を持っていた既存建屋において、型式認定が外れないように構造の内側に断熱ラインを挿入していく。その際に断熱層のラインを少しだけ既存の天井面や外壁面とずらすことで、既存の外壁と断熱ラインの間にバッファーゾーンとずれた開口を形成していく。元々は内部と外部が１枚の天井や外壁と開口で強固に隔てられていたが、今回の操作により膨らんだ外壁内部と外部がゆるやかに隔てられる。新たに断熱ラインに設けた開口越しには、過去のインテリアやずれた既存の開口から見え隠れする周辺の環境が昔からそこにあるものとして、並列に存在するように計画した。
| 性能向上の特性 | 温熱性能/耐久性能/防音・遮音性能 |
|---|---|
| 特に配慮した事項 | 限られた予算で全ての内部空間を断熱エリア内にしないことで、外部と のバッファーゾーンを設け、多用な室内空間を設計した。 |
リフォーム前
リフォーム前後の平面図
物件概要
| 所在地 愛知県刈谷市 | 新築竣工年 1984年 | 築後年数 39 年 | 施工期間 210日間 |
| 該当工事床面積 132.49 �� ／総工事床面積 132.49 �� | 該当部分工事費 1,800 万円 ／総工事費 1,800 万円 | ||
| 居住者構成 65 歳以上： 人 ／ 40 〜 64 歳：2 人 ／ 15 〜 39 歳：1 人 ／ 14 歳以下：2 人 | |||
講評
本建物は築後40年の、ハウスメーカーによる軽量鉄骨造型式認定の一戸建て住宅である。
所有者は、3世代同居の家族であるが、子供の成長とともに生活時間帯や生活スタイルが変わってきて暮らしに合わなくなったため、3世代同居の生活をより快適に過ごすためのリフォームを実行することにした。リフォームの要望としては、2世帯がそれぞれにくつろげるリビングと子供室を設けることで、工事内容は、間取りの変更と、温熱性能、防音・遮音性能の向上を目指した全面改修工事となった。
一般的に型式認定住宅では、簡単に壁や床を取り払うことは極めて難しい。開口部の位置を変えることは困難であり、間取りや室内空間は既存の開口部に縛られることになる。
温熱性能、防音・遮音性能を上げながら、空間を暮らしに合わせて整えたい。その施主の要望を満たすべく設計者が考えだした方法が、なかなか良い。
その方法は、型式認定が外れないよう構造体の内側に、既存の外壁面から角度を変えて新たな壁・内窓を断熱ラインとして挿入し、既存の開口に縛られない新たな開口と空間を設けることである。
既存の外壁と断熱ラインの間に生まれた空間「インナーテラス」は、内と外を緩やかに隔て、バッファーゾーンとして温熱環境の向上だけでなく、季節によって空間を閉じたり開放したりすることで、気候と対話しながらの暮らし方を生みだし、生活を豊かにする存在となっているとのことである。
また、大きさや位置を既存に縛られずに設けた内窓は、視線や光を自由に計画することを可能としている。１階寝室の低い位置に設けた窓は、外部からの視線と光をうまく調整し、寝室を落ち着ける空間にしている。２階LDKのベンチやカウンターに絡ませて設けた窓は、リフォーム前とは全く異なる表情のくつろぎの空間を生み出している。
さらに、この既存外壁の内側に断熱ラインを設ける方法には、もうひとつ大きなメリットがある。それは、既存の壁を壊さず室内側に断熱材を設け、内窓を設けるという足し算の考え方によるため、撤去処分費用の削減と工期の短縮により工事費用全体を抑えることができるという点である。
内装は、施主の「木を生かした空間にしたい」との思いを満たすことと、DIYができるご主人のために、住みながら手を加えられるラワン合板の無塗装としている。インナーテラスは、新設壁は断熱材の上にポリカーボネート板張りで仕上げ、外壁側は既存の窓と壁を残し、過去の住まいの表情もうかがえる空間である。
設計者がこのリフォームに込めた思いは、温熱環境も音環境も、完璧に遮断する手法ではなく、緩やかに遮断することで、2世帯三世代の暮らしを豊かにしたいとの思いである。その思いを見事に具現化し、豊かな暮らしを実現したこのリフォームを審査委員特別賞として評価したい。
