
公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞【コンバージョン部門】
歴史ある港町の暮らしを感じられる宿−分散型宿泊施設 鞆 港町−
| 設計会社 |
桐谷建築設計事務所 |
| 施工会社 |
水本兄弟建設(有) |
| 構造 |
在来木造 |
コンバージョンの動機/設計・施工の工夫点など
港町の鞆の浦に点在する古民家や空き家を再生し、地域全体を一つの宿泊施設に見立てた分散型宿泊施設。江戸から潮待ちの港として栄華を誇った町は、交通、産業の変化により時が止まった古き町並みと海辺の風景が残るゆえの観光の町へと変わっていますが、住民は、歴史文化、風景や町並みといった町の暮らしを大切に守り続けており、それらを持続的に次世代に継承していく地域活性化の取組みが必要と考えました。
先ず町中の商家をフロントとして、鞆港を一望できる医王寺下の古民家2棟を客室に改修し、宿泊者に客室までの道のりを散策し鞆の暮らしを感じていただき、滞在中は地域住民の協力のもと地元での食事や練り物作り、朝市や漁師体験など、歴史ある港町の昔と今の暮らしを体感して鞆の住民の暮らしを感じられる過ごし方をして頂いています。
設計・施工の工夫点は、外部の補修を最小限にしてアンテナや現代的な設備をコンパクトにまとめ、鞆の昔ながらの風景に違和感がないように計画し、内部も耐震や断熱改修をおこないつつ表面的な材料はそのままに、ひび割れや雨染みも建物の辿ってきた時間的な歴史として残して生活の痕跡が感じられる空間の仕上げをおこなっています。
| 性能向上の特性 |
耐震性能、耐久性能、断熱性能、
景観、鞆港や町へ繋がる開放性 |
| 特に配慮した事項 |
各建物の町全体との繋がりと建築個々が持つ暮らしの痕跡や記憶、経年変
化を残しつつ、宿泊施設としての環境を向上させる計画としています。 |
コンバージョン前
コンバージョン前後の平面図
物件概要
| 所在地 広島県福山市 |
新築竣工年 1935年 |
築後年数 86 年 |
施工期間 214日間 |
| 該当工事床面積 181.65 �� /総工事床面積 181.65 �� |
該当部分工事費 3690 万円 /総工事費 3690 万円 |
講評
福山市の古くからの港町である鞆の浦に点在する古民家を再生し、地域全体を一つの宿泊施設に見立てた「まち宿」コンセプトの分散型宿泊施設を実現させたプロジェクトである。今回の応募は築後100年弱から100数十年の木造建物3棟の再生についてであった。3棟のうち1棟は国指定の「重要伝統的建造物群保存地区」にあり、他の2棟も町の文化財として大切に扱う必要があった。外観や内観についても繊細な変更・保存計画を立てねばならず、なおかつそれらを生きた建物として町の活性化にも寄与するように運営する必要があった。この二つのややもすると相反する事柄をともに実現しようとする今回のチャレンジは、10年に亘る住民とまちづくり組織の協議等の段階を丁寧に経てきた上でのものであり、国の文化財行政、景観行政等とも深く関わる先導的な取組みである。この点は高く評価できる。
具体的には、若い経営者が集まって作ったまちづくり会社が中心となり、長年にわたって歴史的な街並みを守る活動を続けた結果、地元から古い民家の活用を託され、今回の計画に繋がった。関係者のチームワークのみならず、地元住民からも厚い信頼を得て実現していることが想像できる。先ずこの点で、古民家単体では活用できずに持て余し、失われつつある街並みに手をこまねいている各地の所有者や事業者にとってモデルとなるプロジェクトだと言える。このことも高く評価できる。
また、こうした古い木造建物の再生において難しい事柄の一つに、耐震性の問題がある。このプロジェクトの場合、福山市の基準では「特定既存耐震不適格建築」にあたるため、あくまで努力義務だった耐震改修を自主的に行っている。古民家の魅力を損なわないように、耐震補強や断熱改修、新規の設備類は目立たないように配慮されている。丁寧な設計・工事内容だと言える。
このプロジェクトのような古く文化財的な価値のある建物群を活用して「まち宿」にする取り組みは、単なる空き家活用とは異なり、歴史的な街並みをいかす活動として住民の地元愛を高め、地場産業の振興に繋がる可能性が十分にある。今後の展開も大いに期待できるものである。
※受賞案件の設計・施工に表示される組織名・会社名などは受賞当時のものを表示しています。