国土交通大臣賞【コンバージョン部門＜住宅→ 非住宅タイプ＞】
瀬戸 2棟空家の改修
| 設計会社 | アトリエメイ一級建築士事務所 |
|---|---|
| 施工会社 | （株）箱屋 / 児玉 佑司 |
| タイプ | 併用住宅 |
| 構造 | 在来木造、鉄骨造 |
コンバージョンの動機／設計・施工の工夫点など
建主はコロナ化によるリモートワークの普及をきっかけに、東京から離れ、親元の近くで住むことを決めた。敷地は名古屋市から電車で1 時間ほどの愛知県瀬戸市。夫は設計事務所を開業し、妻は自宅で働きつつ、共に子育てをすることを希望した。近年話題の移住だが、低密な地方における自由な暮らしの反面、実際はリモートワークを原因としたコミュニティからの孤立も容易に想像され、躊躇するケースも多いのではないか。本計画は令和の地方におけるライフスタイルの一つとなることを目的とした。
具体的には、建物を「公・共・私」として設定・計画し、他者との様々な関わり方をできる場所とした。それぞれの空間の設えを変えることで、来客の無い時も「ひとつの家」として気分によって居場所を変えることができるように工夫した。
お出かけのしにくい雨の休日には、家族で「公」の場所で過ごしてリラックスするように活用している。
地方特有の、少し規模の大きい空き家活用や、地方におけるライフスタイルの一つのモデルになることを願っている。
| 性能向上の特性 | 耐震性能（老朽化部分の補修含む） |
|---|---|
| 特に配慮した事項 | 解体後、腐敗している木材の部分的な取替えや、基礎の補強を含めて 耐震補強を行い、市の補助金採択を頂くレベルの性能を持たせた。 |
リフォーム前
リフォーム前後の平面図
物件概要
| 所在地 愛知県瀬戸市 | 新築竣工年 1971年 | 築後年数 53年 | 施工期間 210日間 |
| 該当工事床面積 195 �� ／総工事床面積 195 �� | 該当部分工事費 2,500 万円 ／総工事費 2,500 万円 | ||
| 併用住宅 | |||
講評
「その日は東京にいないので、私はオンラインの方で参加させて頂きます。」今では当たり前の台詞になっているが、コロナ禍の前にオンライン会議など全く一般的ではなかった。高々ここ数年のことなのだ。リモートで打合せや会議が済ませられるようになったことで、若い世代を中心に大都市圏からかつての通勤圏外に、よりゆったりとしたライフスタイルを求めて移住する人が増えたのもまた、コロナ禍以降の現象である。
他方、日本における空き家の数は年々増え続けており、2023年の住宅・土地統計調査によれば、その総数は900万戸に達している。それを問題と捉える場合もあるが、日本に住むすべての人にとって、利用できる空間資源がどんどん豊かになってきているという捉え方もできる。
本作品は、これら二つの事柄、つまりよりゆったりとしたライフスタイルを求めて大都市圏から地方圏に移住したいという住み手のニーズと、どの地方に移住したいと思ったとしても、どの地方でも住める空き家は選り取りみどりという今日日本の豊かな空間資源の状況とが結び付くことでできた、ポスト・コロナの日本らしい作品である。
設計者でもある施主は、コロナ禍までは首都圏に居住していた30代のご夫婦。小さなお子さんを子育て中でもある二人は、コロナ禍を経て新しいワークスタイルの可能性が広がったことから、夫の故郷に近い地域で、豊かな自然に囲まれて子育てができ、また地域の様々な人々と繋がることのできるような、ある種開かれた場をも運営できるような空き家を探しに探した。そして、同一の持ち主の隣り合う２棟の空き家を発見し購入した。二人にとってベストに近い環境と規模の空き家を探し出せたことは、日本の空間資源の豊かさを物語る。
築50年を超えた木造住宅と鉄骨造の事務所建物であったから、リフォームは必須だった。一般的な中古マンションなどとは異なり、工事対象面積も195�屬塙�く、築後半世紀を超えた構造躯体も相応に傷んでおり大きく触る必要があったことから、予算との兼ね合いで、使い方に応じた各室の性能設定を行い、ある部分は思い切って半屋外空間にする等、暮らし方に沿ったリフォームができている。
広いスペースをいくつかの性格の異なるスペースに分けてデザインし、季節や時間や集まりの種類等々によって居場所を変えるという暮らし方と、それを可能にする全体のデザインは押しつけがましさがなく、自然体で好ましいものであった。また、２つの棟の使い分けとデザインのメリハリの付け方も自然体。子育て環境としても、首都圏の暮らしとは大きく異なり、伸び伸びしたものになっているし、町で出会った人がしばしば訪ねてくるという地域に開かれた暮らしも想像どおりに展開している。
以上、空き家の有効活用、子育て環境の充実、働き方の未来像への接近、地域活性化への貢献等、様々な政策課題にも関係する素敵な実践例である。よって、本作品は国土交通大臣賞に相応しいものと評価できる。
